―― 茅野さんはこれまで原作の有無を問わず様々な舞台を手がけられていますが、『マクロス』だからこそこだわりたい・気をつけているという点はありますか?
茅野:マクロスって人間の営み、とりわけ愛というものを深く描いているじゃないですか。その中でも三角関係がとても重要な要素になっていて、興味深いですよね。人を愛するのは幸せになりたいからなのに、三角関係って絶対どちらかは幸せになれない。マクロスってSFアニメのはずなのに、なんでこんなに人間ドラマが深くて、切ないんだろうって思います。ランカを応援する人がいれば勿論シェリル応援する人もいる。アルトがシェリルを選んだ時に、ランカの気持ちになっていた人は同じように失恋するわけです。反対にシェリルを応援してた人は嬉しいけど、シェリルはシェリルであんなことになって、凄く後を引いて、悲しくて…。シェリルの歌には、人間が生まれながらに持っている“生の悲しみ”みたいなものが曲にも声にも宿っていますよね。『生きてるってそれだけで素晴らしい』ことだけど、その反面、『人間って悲しいよね…』って、そんな哲学的な深みがある。そういう部分は大事にしたいと思っています。そして、何と言っても楽曲が素晴らしいので、そこは最大限に生かしていきたい。今回の芝居は、いわゆるカタログ・ミュージカルとか、ジュークボックス・ミュージカルと言われる、一つのアーティストやグループ・テーマに沿った既成曲を使ってミュージカルを作るという手法を取っています。有名なところではABBAの曲を使った『マンマ・ミーア!』やQueenの曲を使った『We Will Rock You』などがありますが、ひとつのアニメシリーズの曲だけでオリジナルストーリーが構成されているというのはおそらく他にないんじゃないでしょうか。本邦初いや銀河初だと思います。“ザ・ミュージカルチャー”は非常に珍しい舞台になると思いますね。曲の破壊力が凄まじいから、そのパワーに負けないように物語や登場人物、そして歌い手がエネルギーを持ってかからないと、楽曲に跳ね返されてしまう。そこが勝負どころだと思っています。無理やりヒット曲を並べただけの表現にはしたくないな、というのが気をつけているところではあります。
>>後編に続く(2012年9月18日公開予定)