『薄皮一枚剥がれたらそこはもう地獄』
茅野:僕たちの舞台が、30年続いてきたマクロスの歴史の中の一員になることができたらこれ以上の幸せはありません。その思いが一番強いです。
河森:みんなが継いできたものを、歌にかける女の子たちや男たちが歌う。シェリルやミンメイやバサラという個人を追うんじゃなくて、歌で構築されたマクロスの世界観の中で、自分たちがその場の住民としてそこにいる。そんな空間に立ち会えそうな気がします。想像以上にマクロスだな、という気が凄くしますね。
茅野:打合せで監督が『薄皮一枚剥がれたらそこはもう地獄』と言われたんです。ツーナインという船の中で、お客さんも含めて運命共同体となることで、本当に薄くて脆いもので僕らの命が辛うじて保証されている。だからこそ今という瞬間が大切なんだという感覚を味わって欲しいです。お客さんにも一緒にこの物語を経験してもらって、歌に包み込まれて、同じ場所にいるんだと思えるものに出来れば素敵ですね。
河森:なりそうな気配を凄く感じるんで、ゾクゾクしています。
見ているお客さんの呼吸に合わせて舞台が動く瞬間は凄くいい。
茅野:是非そうしたいですね。敵わないとは思いましたが、原作になくて僕らにあるもの、対抗できるものは、やっぱりフィジカルだと思うんです。そこが勝負どころですね。もちろんストーリーやキャラクターも大切だけど、見せたいのはやっぱり肉体表現ですから。そこを目指したいですね。
河森:そこがアニメ側としては羨ましいですね。生身の存在があるという強さは、舞台を見る醍醐味だと思います。ただ演者が歩いて来るだけで空間が変わるあの感覚は、やっぱりゾクゾクします。
茅野:良い舞台ってそうですよね。でも最近は舞台から肉体が消えていってる作品も多いんですよね。大きな会場だとマイクを使いますが、マイクだと簡単に声が届くから俳優さんも届けるためにエネルギーを使わなくなったり。無駄な動きをしなくなるというか。表現というのは無駄があればあるほど面白いと思っているのですが、妙に綺麗にまとまってしまうものも多くて。僕はもっと、人間が無駄にあがいている姿というか、“生身”の部分で勝負をしたい。マクロスの世界にもそういう要素が凄くあると思っているので、アニメで出来ていることをもっともっと生身を使って表現したいと思っています。
河森:そこはとても楽しみだし、同時に羨ましいです。見ているお客さんの呼吸に合わせて舞台が動く瞬間というのは凄くいいですよね。
茅野:そうなんです。客席と舞台の呼吸がぴったり合うというか。良い芝居にはそういうのがあるので、その瞬間を是非ともお客さんと共に作り上げたい。そう思っています。